江戸時代末期の創業以来、卓越した技術で知られる包丁の名門、正本総本店。
プロの料理人から一般家庭まで幅広く支持される背景には、六代にわたり受け継がれてきた老舗鍛冶技術があります。
和包丁シリーズにおける玉白鋼や本霞などの違いと用途、そして洋包丁のハイパーモリブデン鋼シリーズの特徴は、まさにその技術の結晶です。
しかし、どれほど優れた包丁でも、日々のメンテナンス、特に研ぎ方やサビ対策を怠っては真価を発揮できません。
また、その名声ゆえに正本総本店の偽物が出回ることもあり、購入時には注意が必要です。
和包丁と洋包丁それぞれにおける製造技術の特長や、「すみだモダン ブランド認証」を取得したブランド価値を知ることで、なぜ正本総本店が選ばれ続けるのかが見えてくるはずです。
この記事では、正本総本店の包丁の魅力から、正しい手入れの方法、購入時の注意点までを詳しく紹介します。
- 正本総本店が持つ歴史と技術的な強み
- 代表的な和包丁・洋包丁シリーズの具体的な特徴
- 包丁の性能を維持するためのメンテナンスと研ぎ方の基本
- 鋼の包丁に必須のサビ対策と保管方法
正本総本店の包丁が選ばれる理由

- 受け継がれる老舗鍛冶技術
- 「すみだモダン ブランド認証」を取得したブランド価値
- 和包丁・洋包丁それぞれの製造技術の特長
- 玉白鋼・本霞など和包丁シリーズの違いと用途
- 洋包丁・ハイパーモリブデン鋼シリーズの特徴
受け継がれる老舗鍛冶技術
正本総本店の歴史は、江戸時代末期に初代・松沢巳之助が創業したことに始まります。
その後、明治23年(1890年)に現在の東京都墨田区吾妻橋の地に店を構え、以来6代にわたってその卓越した庖刀技術を研鑽し続けてきました。
単に歴史が長いだけでなく、明治36年(1903年)には「正本」の商標を登録しており、これは日本の包丁ブランドとして非常に早い段階での確立を意味します。
この長きにわたる歴史の中で培われた「製品管理」と「高品質な庖刀」へのこだわりこそが、他の追随を許さないと評される理由です。
伝統と革新の歩み
江戸末期の創業から、明治時代の開店・商標登録を経て、現代に至るまで正本総本店は、一貫して高品質な刃物を提供し続けることで、プロの料理人からの絶対的な信頼を築き上げてきました。
その技術は、まさに日本の料理文化と共に歩んできた歴史そのものと言えるでしょう。
「すみだモダン ブランド認証」を取得したブランド価値
正本総本店の技術力とブランド価値は、地域社会からも高く評価されています。
その証の一つが、東京都墨田区が推進する「すみだモダン ブランド認証」の取得です。
この認証は、単なる製品の良し悪しだけでなく、持続可能性や共創性、独自性といった理念に基づき、「ものづくりを通して社会課題の解決等に取り組む事業者の活動そのもの」を認証するものです(2021年以降の新基準)。
正本総本店は、この認証において「医療用はさみの高度な製造技術を用い、一点一点手作業で製作」している点が評価されています。
刃同士が吸いつくような滑らかな切れ味と高い耐久性を追求するその姿勢は、包丁作りにも通じるものであり、非常に精密な手仕事の技術がブランドを支えていることを示しています。(すみだモダン ブランド認証)
和包丁・洋包丁それぞれの製造技術の特長
正本総本店の強みは、和包丁と洋包丁の両方において、用途に応じた最適な製造技術を採用している点にあります。
それぞれの技術には明確な特長が存在します。
和包丁の伝統技術(霞・本焼)
和包丁の製造には、主に「霞(かすみ)」と「本焼(ほんやき)」という2つの伝統的な技法が用いられます。
- 霞(かすみ):
鋼(はがね)と軟鉄(地金)という異なる金属を鍛接(鍛造して接合)して作る技法です。
刃先は硬い鋼で切れ味を担保しつつ、全体は比較的柔らかい鉄で支えるため、研ぎやすく、刃こぼれしにくい(欠けにくい)という特長があります。
多くのプロの料理人が霞の包丁を使用しています。 - 本焼(ほんやき):
鋼のみを鍛え上げて作る、日本刀と同じ製法です。
全体が非常に硬く、圧倒的な切れ味の持続性を誇りますが、製造が難しく非常に高価です。
また、研ぎにも高い技術が要求されます。
洋包丁の革新技術
一方、洋包丁では、伝統的な鋼材とは異なるアプローチが取られます。
代表的な「ハイパーモリブデン鋼」シリーズでは、錆びにくさと切れ味の持続性を両立させるため、高硬度のステンレス鋼材が採用されています。
また、ハンドル部分には「ジュラコン®」という高機能樹脂を使用し、耐久性や耐水性、衛生面(抗菌剤配合など)を高めている点も、業務用として酷使されることを想定した洋包丁ならではの特長です。
玉白鋼・本霞など和包丁シリーズの違いと用途
正本総本店の和包丁を代表するのが「玉白鋼(ぎょくはくこう) 本霞(ほんがすみ)」シリーズです。
「玉白鋼」とは、刃物鋼として最上級とされる日立金属製の「白紙(しろがみ)」、特に白紙二号などを指すと考えられています。
これは不純物が極めて少ない高純度の炭素鋼であり、鋭い切れ味と研ぎやすさを両立しているのが最大の特長です。
「本霞」とは、前述の「霞」の製法の中でも、特に上級な仕上げを施した製品を指します。
鋼と軟鉄を丁寧に鍛接し、研ぎ上げられた包丁は、食材の繊維を壊さず、美しい切り口を実現します。
玉白鋼 本霞シリーズの主な用途
このシリーズは、鋼の鋭い切れ味が求められる日本の伝統的な調理に最適です。
- 柳刃包丁: 刺身を引くための包丁。一方向への引き切りで、美しい断面を作ります。
- 出刃包丁: 魚を卸したり、骨を切ったりするための包丁。厚みと重さがあります。
- 薄刃包丁: 野菜の桂剥きや刻み物に使用する包丁。刃が薄く直線的です。
これらの包丁は鋼製であるため、後述するサビ対策が必須となりますが、それを補って余りある切れ味を提供してくれます。
洋包丁・ハイパーモリブデン鋼シリーズの特徴
和包丁とは対照的に、洋包丁シリーズで人気の「ハイパーモリブデン鋼」は、利便性と高性能を追求したモデルです。
最大の特徴は、その鋼材にあります。
カーボン(炭素)量1.0以上を含有する高純度なモリブデンバナジウム鋼を使用しており、これによりステンレス系でありながら鋼に迫る高硬度と優れた耐摩耗性を実現しています。
この結果、プロの現場での長時間の使用にも耐え、シャープな切れ味が非常に長持ちします。
また、ステンレス鋼の特性である「錆びにくさ」も兼ね備えているため、日々のメンテナンスが鋼の和包丁に比べて格段に容易です。
衛生的でタフなジュラコン®ハンドル
ハンドル部分には、強度と弾性に優れる「ジュラコン®」樹脂が採用されています。
劣化しにくく、抗菌剤が配合されているため衛生的です。
一部の販売店では「食器洗浄機に対応」との情報もありますが、包丁の刃やハンドルへの負担を考慮し、長持ちさせるためには手洗いをおすすめします。
牛刀やペティナイフなど、多目的に使用できる洋包丁において、この「切れ味の持続性」と「手入れのしやすさ」の両立は、大きな魅力と言えるでしょう。
正本総本店の包丁を長く使うために

- 包丁の基本メンテナンス
- 包丁の正しい研ぎ方とは?
- 包丁に必須のサビ対策
- 正本総本店の偽物と見分け方
包丁の基本メンテナンス
正本総本店の包丁、特に玉白鋼などの鋼(はがね)製品は、適切なメンテナンスによってその真価を発揮し続けます。
日常の基本は「水分を徹底的に除去する」ことです。
使用後は、食器用中性洗剤とスポンジで汚れを洗い流してください。
その後、熱湯(お湯)を包丁全体にかけると、刃体の温度が上がり、水分が蒸発しやすくなります。
最後に、清潔な乾いたふきんで、水気を完全に拭き取ってから保管します。
調理中であっても、濡れたまま放置しないことが重要です。
まな板の横に乾いたふきんを置き、こまめに水分や汚れを拭き取りながら作業する習慣をつけると、サビの発生を大幅に抑えることができます。
冷凍食品や硬い骨への使用は避ける
鋭い切れ味を持つ包丁ほど、刃先はデリケートに作られています。
完全に解凍されていない冷凍食品や、太い骨などを無理に切ろうとすると、刃が大きく欠ける(刃こぼれする)原因となります。
出刃包丁で骨を断つ場合も、叩き切るのではなく、アゴ(刃元)の部分を当てて体重をかけて押し切るように使用してください。
包丁の正しい研ぎ方とは?
切れ味が落ちてきたと感じたら、砥石(といし)で研ぐ必要があります。
正しい研ぎ方をマスターすることで、新品同様の切れ味を取り戻すことが可能です。
まず、砥石は「荒砥(あらと)」「中砥(なかと)」「仕上砥(しあげと)」の3種類を用意するのが理想です。
最低でも、日常のメンテナンス用として「中砥」は必須です。
研ぎ方の基本ステップ
- 砥石の準備: 砥石は使用前に水に浸し、気泡が出なくなるまで十分に吸水させます(約15分〜20分目安)。
- 砥石の固定: 濡れ布巾などの上に置き、研いでいる最中に砥石が動かないようしっかり固定します。
- 角度の維持: 包丁を砥石に対して45度〜60度程度の角度で置きます。そして、刃先を砥石の面に当てる角度(約15度、10円玉1〜2枚分)を一定に保ちます。
- 研ぐ: 刃に近い部分を指で押さえ、刃先からアゴ(刃元)まで、全体を均等に研ぎます。押す時(または引く時)に力を入れ、戻すときは力を抜きます。
- 「かえり」の確認: 研いでいると、刃先の反対側に金属のめくれ(「かえり」や「バリ」と呼ばれます)が出てきます。これが刃が付いたサインです。「かえり」が刃先全体に均一に出たら、その面の研ぎは完了です。
- 裏面を研ぐ: 次に包丁を裏返し、反対側を軽く研いで「かえり」を取り除きます。(和包丁の場合、裏面はピタリと砥石に当て、数回研ぐ程度にします。表8:裏2程度の割合です)
研ぎ終わったら、包丁をよく洗い、砥石の粉や「かえり」を完全に除去してから乾燥させてください。
砥石の「面直し(つらなおし)」も重要
砥石は使っていくうちに中央部分が凹んできます。
凹んだ砥石では正しく刃を当てることができないため、定期的に「面直し用砥石」を使って砥石の表面を平らに修正する作業(面直し)が必要です。
包丁に必須のサビ対策
玉白鋼などの鋼(はがね)製和包丁にとって、サビは最大の敵です。
鋼は水分や塩分、酸に触れたまま放置すると、わずか数分で錆び始めることもあります。
日常のメンテナンス(使用後に熱湯をかけて乾拭き)が最も重要ですが、もし錆びてしまった場合の対処法と、長期保管の方法を知っておくことが大切です。
軽いサビが発生した場合
表面に赤茶色のサビが浮いてきた程度であれば、クレンザー(磨き粉)をスポンジやコルクにつけ、サビの部分を擦り落としてください。
その後、よく洗い流し、完全に乾燥させます。
正本総本店の公式サイトによれば、おろしたての1ヶ月間は、あえてクレンザーで磨き上げることで表面に酸化皮膜ができ、鏡面のように美しくなり、結果として錆びにくくなるとされています。(正本総本店の公式サイト)
長期間使用しない場合の保管方法
数週間以上使用しない場合は、サビ防止の処置が必要です。
- 包丁を研ぎ、汚れやサビを完全に落とします。
- 水分を完全に乾燥させます。
- 刃物用の油(椿油が最適)を清潔な布に少量含ませ、刃全体に薄く塗布します。
- 新聞紙や乾いた布で包み、湿気の少ない冷暗所で保管します。
木の鞘(さや)に入れたままの長期保管は厳禁
包丁に付属する木の鞘は、あくまで持ち運び用です。
鞘の内部は湿気がこもりやすく、鞘に入れたまま長期間保管すると、サビの大きな原因となります。
保管する場合は必ず鞘から出してください。
正本総本店の偽物と見分け方
正本総本店は、その歴史と品質の高さから「周知・著名な商標」として認定されるほどのブランドです。
そのため、残念ながら市場には偽物や模倣品が出回る可能性があります。
ロゴや刻印を精巧に真似られると、一般の消費者が見分けることは非常に困難です。
公式サイトなどでは、偽物の具体的な見分け方について積極的な情報は公開されていないのが現状です。
最も確実な対策は、正規販売店や信頼できる専門店で購入することです。
価格が不自然に安い場合や、出所が不明瞭な中古品・オークションサイトでの購入には、特に注意が必要となります。
高価な買い物だからこそ、信頼できるお店を選ぶことが、結果として本物の品質を手にする一番の近道ですね。
正本総本店の包丁で料理を高めよう
最後に、正本総本店の包丁について、その魅力と取り扱いの要点をまとめます。
- 正本総本店は江戸末期創業、明治23年開店の老舗
- 6代にわたり受け継がれる卓越した鍛冶技術が強み
- 医療用はさみの技術も応用され「すみだモダン」認証を取得
- 和包丁は鋼と軟鉄を合わせた「霞」が主流
- 「本焼」は鋼のみで作る最高級品
- 「玉白鋼 本霞」は白紙鋼を使った上質な霞包丁シリーズ
- 玉白鋼は鋭い切れ味と研ぎやすさが特徴
- 和包丁は柳刃、出刃、薄刃など用途が明確
- 洋包丁「ハイパーモリブデン鋼」は高カーボンのステンレス鋼
- 高硬度で耐摩耗性に優れ、切れ味が長持ちする
- 洋包丁は錆びにくくメンテナンスが比較的容易
- ハンドルは衛生的で耐久性の高いジュラコン®を採用
- メンテナンスの基本は使用後の洗浄・乾燥・熱湯消毒
- 鋼の包丁は水分や塩分を放置するとすぐに錆びる
- 研ぎには中砥を中心に荒砥・仕上砥があると万全
- 研ぎの際は角度を一定に保ち「かえり」が出るまで研ぐ
- 砥石は使用前に吸水させ、定期的に「面直し」を行う
- サビ対策には椿油の塗布やクレンザーでの研磨が有効
- 長期保管時は木の鞘から出して油を引く
- 著名なブランドのため偽物に注意し正規店で購入する

